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March 09, 2010

無謀な遭難でも、人命は救うべきである

・・・・・・・(嘆息)。

 ◎PJオピニオン「無謀な登山者や山スキーヤーに遭難捜索の必要なし、自己責任貫徹を」

 まただ。ホントにこの手の暴論は、あとをたたないな……(大嘆息)。何が「貫徹を」だよ、自己責任と自業自得の区別もつかないくせに……(超大嘆息)

以前e4MEDIA ガイディング研究所 ガイドの一般教養講座vol.9:危機管理の話に入る前にの「ツタの正体其の参:混同」であげた悪例そのまんま。

 一般人がこういう暴論をぶつのはまだ許せるのだが、ジャーナリストを名乗る人間が、危機管理のノウハウのイロハのイの知らないままにこういう超無責任な記事(なんせ「反」危機管理を推奨する文章だ)をアップするのは、本当に頭が痛い。ったく・・・・・・(巨大嘆息)。

 僕は危機管理をライフワークと心に決めて、もうずいぶん書いたりしゃべったりしてきているが、こういう日本人の危機管理レベルを下げるような意見に出くわすと、さすがにへこむ。

 思いっきり重複するコンテンツになってしまうが、やっぱり書かずにはいられない。彼に限らずこの手の暴論をぶつ人には、次の点を再考していただきたい。


【その一】
 人命尊重は最優先事項だということ。これが危機管理の大前提の一番の基本。

 この手の暴論者には、この大切な視点が欠落している。事故で死にそうになっている人がいれば、悪人だろうが罪人だろうが自業自得だろうが、助けるのが基本。じっさい、犯罪者が自殺を試みた場合も、「放っておけ」とはならない。山で助けを待っている人を「放っておけ」となんて意見は、もはや犯罪に等しい。

 ただし例外が二つある。

1) 捜索・救助者が二次遭難する危険性が高いとき
2) 遭難者が、実は長年探し回っていた親の仇だったとき

 この二つの場合は、捜索・救助できない(しない)としてもいたしかたない。ま、後者は冗談だが。

【その二】
 もう少し具体的な危機管理のノウハウの話になるが、「遭難捜索」は危機管理における第二段階の「対処」のレベルである(第一段階は「予防」)。
 一方、責任の追及は段三段階の「(事後)処理」のステージでやるべきことである(詳しくはe4MEDIA ガイディング研究所 ガイドの一般教養講座 研究発表vol.10:危機管理「日本人の弱点?」をご参照のこと)。

 つまり、遭難の理由は、救助の是非に一切影響しない。捜索・救助をするかしないかの判断は、上記のように「捜索・救助者の安全が確保できるかどうか?」という点だけにおいて決定されるべきだ。

 無謀な行為、無責任な行為を責める気持ちは分かるが、それは救助の後に「(事後)処理」の段階でゆっくりやるべきこと。「自己責任だから助けない」というのは、まるっきりアベコベの暴論なのである。
 つまり、無謀な行為をきちんと糾弾しようとすれば、結論はまったく逆になる。無謀な行為、無責任な行動の結果遭難した人間に「自己責任」を取らせるには、レスキュー後にそれなりの社会的責任、社会的制裁を負わせるしかない。だからむしろ、無謀、無責任な行動を責めるためにも、レスキューは必要なのである。

無謀な行為にレスキューが不要なんだったら、極論すれば路地から飛び出して車にひかれたヤツには、救急車を呼んでやらなくていい、っていうことになる。酒を飲みすぎて急性アルコール中毒で倒れた人も、「ほうっておけ」ということになる。
 そんなわきゃない。救急車呼んでやらなきゃ。山や海で遭難した人だって同じだ。助けたあとで、たっぷりお灸をすえてやればいいのだ。それが正しい危機管理のメソッドである。

 だから遭難者を助けなくていいなんていう意見は、金がなかったら銀行強盗してもいい、なんてのと同じくらいのレベルのタワゴトである。まともな社会人が口にするような意見ではない。ましてやジャーナリストを名乗る人間は、口が裂けてもいうべきではない。

ちなみに上記暴論のコメント欄にはいろいろと興味深いコメントが散見された。その中の一つに、「捜索費用請求される山岳遭難と、請求されない海難をゴッチャにしているから、この記事はレベルが低い」という意見も書かれていた。

 確かに重箱の隅的には正しい部分もあるのだが、この暴論に対する反論としては枝葉末節だと思う。なぜならこの費用請求のタイプによる分類法を持ち出せば、「じゃぁ海難だったら、無謀なやつは放っておいてもいいんだな」というますますアホな切り返しを食らってしまう懸念がある。

 そうじゃなくて、「人命救助は優先」、「責任追及はあとからゆっくり」という基本をおさえて批判する方が妥当だろうと思う。

さてこのパブリック・ジャーナリスト大森勇三、ご自身の見当はずれな記事に対する自己責任を、どのようにおとりになるつもりなのだろう。今後の動向に注目したい。

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関連過去ログ【防災・危機管理】
 ◎パドルの向くまま、気の向くまま「危機管理考」
 ◎オリジナル版「危機管理カテゴリ」
 ◎別冊版「防災 / 危機管理カテゴリ」
 ◎e4MEDIA「ガイディング研究所 ガイドの一般教養講座 研究発表vol.10:危機管理『日本人の弱点?』」 (2009年10月11日)
 ◎e4MEDIA「ガイディング研究所 ガイドの一般教養講座vol.9:危機管理の話に入る前」 (2009年9月10日)

 ◎「漁業体験では、傷害保険が適用されません」 (2008年8月10日)
 ◎【本】昨日のエントリの追記 (2008年6月20日)
 ◎【本】危機管理関連書籍二点 (2008年6月19日)
 ◎モンスターペアレンツ…… (2008年2月11日)
 ◎なるほど、コットンか (2008年3月6日)
 ◎危機管理考 - 混同 (2006年6月24日)
 ◎危機管理考 - アクティヴとパッシヴ (2006年6月23日)
 ◎危機管理考 - レシオ以前の問題 (2006年6月22日)
 ◎備えあれば (2005年7月18日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.12 (2005年5月12日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.11 (2005年5月10日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.10 (2005年5月7日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.9 (2005年5月3日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.8 (2005年4月30日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.7 (2005年4月29日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.6 (2005年4月27日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.5 (2005年4月24日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.4 (2005年4月17日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.3 (2005年4月15日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.2 (2005年4月14日)
 ◎エマージェンシー・プランニング・ガイド Vol.1 (2005年4月13日)
 ◎おっ、これは!(感涙) (2008年2月4日)
 ◎防災小ネタ、あれこれ。(2004年9月6日)
 ◎防災の日。(2004年9月1日)
 ◎ぬるい危機管理論(2004年8月27日)
 ◎防災グッズに物申す。(2004年8月23日)

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「アウトドアガイドって? その2」では、「アウトドアガイド」を三つの類似品「アウトドアインストラクター」、「アマチュアリーダー」、「冒険家」と比べてみました。ところが実は、あえて取り上げなかったもう一つの類似品があるんです。

この記事へのコメント

1. Posted by トラ山   March 09, 2010 11:55
大いに賛成しました!

私も以前バックカントリースノーボードをやっていて、兄を雪で亡くしています。もちろん届けとかも出してました。(その時は、私は一緒に山に入っていなかったんですけどね)
NZから帰国後、山岳ガイドになると思っていた矢先の出来事で、結局はガイドにはならず、変わらず福祉業界にぞっぷりです。

「人命救助」が最優先事項。当たり前の事です!

りゅうさん、ありがとうございます!
(なぜかお礼が言いたくなりました)
2. Posted by Ryu   March 09, 2010 16:32
>トラ山さん

コメントありがとうございます。
お礼だなんて、恐縮です。
お兄様を亡くされてるんですね。
大変ご愁傷様です。

そういう悲劇が一つでも減ればと思って危機管理のことを勉強しているんですが、「バカは死ね」という台詞を危機管理の方法論に平気で持ち込む信じがたい人が後を絶たないのを見ると、そのたびに何とも言えない無力感に襲われます。

が、トラ山さんのコメントで、改めて元気づけていただきました。
ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
3. Posted by uchida   March 09, 2010 20:34
遭難救助は、「遭難」という「結果」に対する当たり前の処置・対応ですよね。

「遭難」に至った動機やプロセスを云々するのは、無事に救助活動が終了した後。

今は、どんなに周到に計画しても、どんなベテランでも、異常気象のせいで不可抗力の遭難に巻き込まれることもあります。

とにかく、救助して、遭難に至った原因を究明する。

安易に自然の中に踏み込んだのなら、どうして、そんな「無謀」を思いつくのに至ったのか、社会学的な検証も必要だと思います。

「バカは死ねと簡単に言う本物のバカこそ死ね」ですね。
4. Posted by トラ山   March 10, 2010 08:17
そういえば、シーカヤックを始めた頃(就職祝いで自分で買った、大学出て1年目の頃なので、かれこれ16年ほど前です〜これが、後にネルソンを選んだ理由になりました!)、妻とタンデム1艇で出航して、危うく漂流するところだったのを、ふと思い出しました。。。

無知って怖いです。

今思うと、危機管理どころではありません。。。
けど、今は色々準備をしてから(これが危機管理なのでしょう)、遊びに行っています。赤ん坊もいますし、子どもらをカヤックに乗せるには、それなりに色々必要ですからね。装備だけでなく、知識も。

兄の事ですが、きっと彼は楽しさの有頂天で召されてしまったのだと思っています。逆に。。。幸せ者なのでは? いつも口癖で言っていましたから、本望だったと思います。

これからも危機管理、教えてください〜!
5. Posted by Ryu   March 10, 2010 10:03
>uchidaさん

おっしゃるとおりです。
順番を間違えるから、おかしな結論が出てくるんですよね。
「無謀なヤツはレスキューしなくていい」ってういう意見は、3+4×5=35と答えているのに等しい、と感じます。
無謀を糾弾するのは、後回しです。

社会学的な検証、必要だと思いますねぇ。
メディアにこういう「バカは死ね」みたいな論調があるから、いつまでたっても無謀がなくならないんじゃないかと邪推してますが、その辺を検証してくださる方がいらっしゃると面白いんでしょうが。
6. Posted by Ryu   March 10, 2010 10:07
>トラ山さん

僕も似たような経験ありますよ。
幸い遭難未遂までは行かなかったので当時はぜんぜん分かっていなかったのですが、僕も十数年前には今思えば準備不足で危なっかしいスノーキャンプをやったりしてました。
一つ歯車が狂えば、遭難してたかもしれないなぁと、プロになってから冷や汗が流れました。

今だって分かったもんじゃないですけどね。
後から振り返れば、赤面モノのトンチンカンをやっているのかもしれません。
日々勉強ですね。


お兄様のこと、残されたご家族がそのように感じていらっしゃるのなら、お兄様も間違いなく冥土で幸せに滑り続けていらっしゃるでしょうね。

7. Posted by トラ山   March 10, 2010 18:04
uchida さん 、ryu さん共に凄いです!
(色々見させていただきました。)

やはり、雪山も海も自然相手ですから、それなりの準備が絶対的に必要ですよね〜当たり前か。。。
それを知らないで・・・・・、というのはきっとベテランでも初心者の頃は経験した事があると思います。ナノで、やはりそのベテランというか経験者が伝えていくべき事ではないでしょうか?

「救助」「遭難」に関しては、お2人のご意見に大いなる、賛成〜〜〜!!!

ryuさん、やっぱりネルソンで知り合っておきたかったなぁ。。。(私は2000年4月〜1年間NZにいました。最初の4ヶ月だけがネルソンでした。)

兄の件。そう思わないとやってらんなんです。。。家族というのはそういうものです。だから、やはり遭難に至ったプロセスだとか動機だとかは無関係です。生還したら追及して、再発防止策を練る(危機管理を考え直す)、のが筋だと思います。
8. Posted by Ryu   March 11, 2010 10:13
>トラ山さん

おぉ、バブル前の古き良きネルソンにいらっしゃったんですね。
あの頃は良かったですね。
今では騒々しくなって、ネルソンよりモトゥエカの方がはるかに住み心地が良くなっちゃいましたが。


そうですよね。
ご家族、ご親族は、遭難へのプロセスなんかは関係ないんですよね。
微力ながら、これからもあの手の心ない記事などが散見されるたびに、異論をとなえていくつもりです。
ホントはあの手の暴論がまったくでなくなるほど、日本人の危機管理レベルがアップするのが理想ですが、そこまではなかなか難しそなので(^_^;
9. Posted by uchida   March 12, 2010 01:00
>トラ山さん

お兄さまを山で亡くされた気持ちは、いかばかりか……。でも、山で逝くのは、山ヤとしては幸せなのかなとも思います。
私も、友人の何人かは、帰らぬ人となりました。

一方、レース仲間も何人か亡くなってますが、レースの場合は、あえてリスクを冒しているわけで、「自己責任」というよりも「自業自得」に近いわけで、それでも、レース中に亡くなったレーサーに向かって、「バカは死ね」という論は出てこないですよね。

アウトドアのアクティビティでは、常に冷静な判断をするべく心がけますが、レースだと、「イチかバチか」という局面が少なからずあります。
それで、私も何度か大怪我しましたが、これは無謀の極地です……でも、自分自身、そんな気持ちを否定できません。

件のPJさんに、「レーサーはどう思いますか?」と聞いてみたいです。
10. Posted by Ryu   March 12, 2010 04:57
>uchidaさん

>アウトドアのアクティビティでは、常に冷静な判断をするべく心がけますが、レースだと、「イチかバチか」という局面が少なからずあります。

程度の差はありますが、やっぱりアウトドアでも「一か八か」という局面は、多々ありますね。
お客様を連れて安全最優先でツアーをやっていても、非常に難しい選択を迫られることはシーズンに一回や二回はあるもんです。

無謀と用意周到の間には、明確な線なんてありませんね。

アウトドアに慣れ、危機管理感覚が肌で身についているNZの人たちはその辺が分かってるんですが、頭でっかちで理屈ばかり振り回す傾向が強い日本に人は、逆にその辺が分かってない人が多いような気がします。
自分自身で、「用意周到、慎重に行動していたつもりでも、いつの間にか『一か八か』の選択を迫られる状況になっていた」という経験がない人は、いつまでたっても危機管理のイロハは理解できないんだろうなと思います。

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H. Ryu Takahashi
オリジナルの『Ryu's Logbook』を、純粋な「航海日誌」にして、2005年7月以降は雑文をこっちに移しました。
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